G.RINAインタヴュー 2010(前編)


G.RINA interview / 2010
自作のメロディと、既存のダブステップのリディム(トラック)をマッシュアップ――というアルバム『MELODY & RIDDIM #1: mashed pieces』から9ヵ月。今度はそのアカペラを基に日本人ビート・メイカーたちがオリジナルのトラックを制作という新作アルバム『MASHED PIECES #2』をリリースしたG.RINAに話を訊いてきました。前作のインタヴューと併せて読むと、より面白いかもしれません。(質問:飯島直樹)

前の『MASHED PIECES #1』をストリート盤として出した後に、同じようにまたマッシュアップがたまったら『#2』を作ろうかというくらいでナンバリングしたけれど、『#1』に対していろんな反応があって、「これを全部オリジナルのビートにさしかえて続編をやったら面白いんじゃないか」と思ったんです。
──最初は『#1』に入っている曲は、それ(マッシュアップ)を試しにやって、そのつど出していくみたいな感じでしたよね?
“作品”にしていく、というつもりもなくて。何曲かそういうのをやってみようという“挑戦”みたいな、最初はほんとにストリートで素振りという感じでした。
──でも『#1』があったから『#2』も生まれたわけですよね?
『#1』は結局、他人のリリース済みのビートに歌を乗せる作業だったんですけど……全部外国の作品で。これを日本のビート・メイカーとやったら面白いんじゃないか、と思ったんですよね。
──その時点では今回のメンツは浮かんでいたんですか?
いやいや、全然。まずマッシュアップの延長で、(ブログで)アカペラを公開したりしてたんです。作品にするつもりで公募したわけではなかったんですけど、「気が向いたら(トラックを)送ってください」みたいな感じで。で多分、気が向いた人が送ってくれて、それを聴いたら面白かったりして。あとは現場で知り合って、日頃からいいなあと思っているDJやビート・メイカーもいたりするので、どんな人とやろうか?っていうのは、長い時間をかけて、ゆっくり決めていった感じです。
──具体的な人選はどんな風に?
私からお願いした人たちに関しては、日本には4つ打ちにも素敵なビート・メーカーが沢山いると思うんですけど、『#1』の延長であるということから、ダブステップやベース・ミュージックが守備範囲だったり、この人にそういうものをお願いしたら面白いんじゃないかっていう方にお願いしました。あと、そのとき自分が出ていたイヴェントとかで知り合ったりとか……それって自分のDJの延長線上にいる人たちだと思うので、そういう“縁”みたいな、それが自然に音とも繋がると思ってお願いしました。
──じゃあ、お互いの音はよく知っていたというわけですね。
人によってそれぞれですね。
──それだけ周りに面白い人が増えてきたと。
身の回りにもビートを作っている人もいっぱいいるので、そういう人たちとまずセッションをしてみたい、そういう人たちが紹介される場がいっぱいあったらいい、そういう両方で。

ほとんどの人は、イヴェントで一緒になるときに話そうと思って。だから結構、長い時間をかけてお願いしてるんです。会ったときに「こういうのを作ってるんだけど」っていう話をして、興味を持ってくれたらそこで初めてお願いをしたり、私がその人たちの音楽のファンであるのが前提だったりするから。
──『#1』で使った歌をそのまま『#2』に使い回してるんですか?
そうですね。作業的にはリミックスと同じで、アカペラと『#1』の曲を渡して。でも、出来上がってきた曲に対して、アルバム全体のことを考えて、日本語にしてみようとか、歌詞を替えてみようとかいう作業はありました。でもメロディは基本そのままです。
──途中でトラックを何回か往復したりとか?
した人もいますね。「もうちょっとこうするのはどうですか?」みたいな提案をした場合もあります。
──それはアルバム全体として考えた場合に?
いえ、アルバム全体というより、そのビート・メイカーのアプローチに対して、という感じですね。
──プロデュース的な感じなのかな?
『#1』がダブステップ寄りのアプローチだったから、たぶんそれを意識して作ってくれたりとか。でも、その人らしさを出してほしいというのがあるので、そこを「もうひとひねり」とか「そぎおとしてほしい」みたいなリクエストをしたりして。
──そうやって出来てきた曲と、インタールード的な短い曲を入れて……あれだけいろんな人が参加しているのに、統一したムードがあるっていうのが面白いなぁと思ったんですよね。むしろ『#1』の方がゴッタ煮感が強かったなと、いま比べるとそんな風に思うんです。アルバムとしての統一感はあるんだけど、個々の楽曲を聴くと、それぞれのビート・メイカーの作品だよ、と言われても違和感がないというか。
『#1』は、そもそもが歌なしで完成されてるインストの作品ですからね。まず「このトラックがインストとしてめちゃくちゃ好きだ!」っていうところから始まって「このビートにメロディを乗せられるだろうか?」っていうチャレンジであって、成り立ちから違うので、ホントはばらけてるはずですよね。
──そんな初期衝動で作った『#1』から、一歩引いてオムニバスを作っているような感じでもあったのかな、自分の好きなビート・メイカーを集めた。
結果的に『#2』は、ダブステップにこだわってというコンセプトではなくなっていて。プロセスの中で、(海外に)似せてつくる必要は全然感じなかったんですよね。私自身のDJと同じで、ふり幅を広くしている部分はあると思います。“周縁部”みたいなところがやっぱり面白いから。“自分の感じている現場感のオムニバス”という感じはあるかな。

そうなんですよ! 私も思い出せなくて、最近また聴き直したら新鮮でした。
──『#1』の頃は、その元のトラックを聴くとリナさんの歌が自然に浮かんじゃってたんですよね。
それは(『#2』の)トラックを作ってくれたビート・メイカーの中にも、「この手のダブステップ・トラックを外で聴くと、なんかG.RINAの声が乗っているような気が、空耳がする」って言っている人がいました。ちょっと怖いですね(笑)。
──正直なところ、勝手ながら不安もあったんですよね。日本の若いビート・メイカーたちが張り切りすぎちゃったら良くないだろうしと思って。でも凄く良かった。ある意味で海外と全く変わらない。真似という意味でなく。
あんまり流行っぽい音はないかな、と思うんです。(参加したビート・メイカーは)たぶんもう「何かを真似する」ってところから抜け出ている人たちだと私は思っているので。私自身もDJとしてUKベース・ミュージックに影響を受けていたり、毎日、浴びるように新譜をチェックしているけど、だからこそ「自分がこの場所でどういうものを発信するのか?」っていうのがあって。そういう葛藤のようなものとか、その人なりのやり方とかが垣間みれた気がします。
──前のインタビューでも話に出たけれど、キーワードとしてはダブステップが出てはくるけど、アルバムを聴くとイイ意味で「これダブステップじゃないじゃん」っていう感じですよね。やっている人たちはダブステップのつもりなのかもしれないけど、いつの間にかそこから出ちゃってるという感じがあって。
そもそも、そんなにダブステップに吸引されていない人もいるんですけど、されながらやっている人は「消化してどうやろうか」というのがあると思います。
──『#1』のときは、実際に海外のプロデューサーのトラックだし、海外の人がこれを聴いたらどう思うかな~というのも楽しみとしてあったんですよね、近くにいる人間として。で『#2』は、ピュアなダブステップでもないし、歌ものである……でも今回は、もうそういうのなんてどうでもいいのかな~という気もするんですよね。海外と並びたいとか、褒めてもらいたくて作ってるわけでもないだろうし。

それともうひとつ感じたことがあって、ダブステップを聴いていると、もう脈々としたUKアンダーグラウンド・ミュージックの血筋を感じるわけで。若いダブステップDJのバック・トゥ・ルーツな選曲とか聴いてて、ウーンこの変遷わかりすぎる!とか感じたりすることもあるんですが、でも私はそこに海や陸をはさんでたり、さらに別の大陸や島の音楽もほおばってきてて、同じ音を聴いてもおそらく背景に見てる絵が違う。思い出す色合いや温度も違うし、見渡したときの仲間の顔も違うはずで。で、自分から見える景色にふと意識をやると、海を渡らなくても近くにいる仲間にも素晴らしいビート・メイカーや個性的なDJがこんなにいるじゃん、ということを感じたり、あるいはベッドルームで打ち込みしてる見知らぬビートメイカーがよっぽど他人じゃないような気がしたり。勝手な思い込みかもしれないですけど(笑)。改めて、そんなビート・メイカーともう少し広角のダンス・ミュージックをつくってみよう、という気持ちにシフトしたんです。
──これは別のところに書いたんですけど、これまでのG.RINAの作品は「海外のクラブ・サウンドをG.RINAが持っているジャパニーズ・ポップス感覚に溶け込ませるか?」という感じだったと思うんですよね。でも今回はその逆で。
えーと、逆というと?
──既にフォーマットとしてある“ベース・ミュージック”にリナさんの要素を入れるっていう……その結果として、より折衷的な“日本っぽさ”が出ているなぁと。G.RINAらしさのひとつの到達点なんじゃないかなと思うんです、今回。
同じコードが鳴った時に、乗せる旋律の動き方とか、ポンと置いた位置とかにそれが出ちゃったりはしますよね。「黒人風に!」とかだったら自分がやらない方がいいし。メロディ出発じゃなくリディム出発だから……制約があるから、むしろ個性も伝わりやすいんじゃないかと思います。『#2』の場合だったら、アカペラの制約があるから、ですね。こういうコンセプト・アルバムを重い意味を持たせずにフットワークを軽くやれたのはよかったです。
(後編へ続く)
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